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相続登記義務化、経過措置期限まで残り9ヶ月の対応

June 2, 2026
3 min read

固定資産税の納税通知書が届く時期になると、毎年同じ問い合わせが回ってくる。「うちの実家、まだじいさん名義のままなんだけど、本当に過料10万円来るの?」。

2024年4月1日に相続登記が義務化されてから2年が過ぎた。施行前の相続も対象で、経過措置の期限は2027年3月31日。2026年6月時点で残り9ヶ月、つまり夏のお盆と年末年始の家族会議を挟んであと2回しか「集まって相談する機会」が残っていない計算になる。期限が見え始めたこのタイミングで、放置している不動産があるなら一度棚卸ししておきたい。

法務省の公表値(2025年時点)では、施行前相続の未登記不動産は全国で約500万筆と推計されている。空き家対策・所有者不明土地の整理という大きな政策目的とセットで運用されているので、今後の運用厳格化は方向としてほぼ確定している。

対象は「祖父母名義の田畑」を持つ人もだ

義務化のポイントを整理すると、相続(または遺贈)で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければならない。違反すると10万円以下の過料が科されることがある。注意したいのは、施行前(2024年3月以前)の相続も対象になるという点だ。「うちは何十年も前の相続だから関係ない」は通用しない。

該当しやすいパターンを挙げると、こうなる。

  • 祖父母・両親名義のまま放置している実家や田畑
  • 名義はそのままで固定資産税だけ自分や親が払っている物件
  • 兄弟と疎遠で遺産分割協議が止まっている共有持分
  • 山奥の山林や原野で「もう要らない」と思っている物件

固定資産税の納税通知書は所有者が亡くなっていても「相続人代表」宛に送られるため、税金が払えていることと登記が済んでいることは別物だ。ここを混同している人がかなり多い。

過料はどのくらい現実的なのか

「過料10万円」と聞いても、実際に来た話を周りで聞かないので半信半疑になる。法務省の運用指針を読むと、いきなり過料が科されるわけではない。法務局が職権で相続を把握した時点でまず「催告」が送られ、正当な理由なく応じなかった場合に過料の通知に進む流れになっている。

「正当な理由」には、遺産分割協議が長引いている、相続人の所在調査に時間がかかっている、相続人が重病、といったケースが含まれる。それでも経過措置期限を過ぎて何の動きもないと「正当な理由なし」と判断されやすくなる。

つまり期限切れの翌日にいきなり10万円が来るわけではないが、長期間放置するほど催告が現実味を帯びる、という温度感だ。

自分でやる vs 司法書士、費用と期間の差

実際に登記を進めるとなると「自分で全部やる」か「司法書士に丸投げ」かで悩む。標準的なケース(相続人3〜4人・遺産分割協議ができている・物件は実家1件・固定資産税評価額1,000万円)で比較するとこうなる。

方法実費報酬期間向いている人
自分で全部やる戸籍3,000〜2万円+登録免許税4万円+郵送3,000円0円3〜6ヶ月平日に法務局に行ける・書類整理が苦でない
司法書士に依頼同じく4万〜6万円報酬6万〜10万円+日当・交通費1〜2ヶ月仕事を休めない・相続人が遠方
弁護士に依頼戸籍・登録免許税ほか着手金20万〜+成功報酬数ヶ月〜1年相続人同士で揉めている

登録免許税は固定資産税評価額の0.4%。評価額1,000万円の不動産なら4万円だ。地方の田畑なら評価額が10万〜50万円台、税額にして数百円〜2,000円で済むことも多い。共有持分の場合は持分比率を掛けた金額になる。

なお法務局の窓口で「相続による所有権移転登記」を申請する場合、評価額100万円以下の土地については2025年度税制改正で登録免許税が免税(2027年3月31日までの登記分に限り)になっている。山林や原野はこの恩恵を受けやすいので、複数筆あるなら一気に片付けるのが得だ。

自分でやる場合の山場は戸籍収集だ。被相続人の出生から死亡までの戸籍を全部追いかけるので、本籍を何度も移していると合計15〜20通になることも珍しくない。1通あたり450円〜750円、定額小為替の手数料も足すと数千円〜2万円の実費がかかる。請求自体は郵送で済むが、平日に役所と電話することが多く、ここで挫折する人が出る。

2024年3月から始まった戸籍法の改正で、本籍地以外の市区町村でも戸籍謄本が広域請求できるようになった。住所地の役所窓口に行けば、複数の本籍地の戸籍をまとめて取れるケースが増えている。ただし対応状況は自治体ごとに差があるので、事前に電話で確認すると無駄足を踏まない。

法定相続情報一覧図(無料)を最初に作っておくと、その後の銀行手続き・証券口座解約・税務署提出でも何度も戸籍束を出さずに済む。発行枚数の制限がないので5部・10部単位で頼んでおくと後がラクだ。

5ステップで進める実務フロー

自分でやる場合の流れはこうなる。

  1. 法定相続情報一覧図の取得 — 戸籍を集めて法務局で認証してもらう。発行手数料は無料。
  2. 相続人調査と確定 — 認知された子・前婚の子・代襲相続人(亡くなった兄弟の子)を漏らさない。
  3. 遺産分割協議 — 全員の実印と印鑑証明書が必要。1人でも欠けると先に進めない。
  4. 登記申請書の作成 — 法務局HPに記入例とひな型がある。
  5. オンラインまたは窓口で申請 — 不備があれば補正の連絡が来る。

途中で詰むのは2と3だ。相続人が10人を超える、海外在住、認知症で意思表示ができない、といったケースは早めに専門家を入れたほうがコストが下がる。半年も自分で動いて結局司法書士に頼む、というパターンが一番もったいない。

自分でやる場合の必要書類チェックリスト

申請書を法務局に持っていく当日、書類が1枚足りずに窓口で突き返される、というのが一番もったいないパターンだ。標準的な「相続人3〜4人・遺産分割協議あり・実家1件」のケースで揃える書類をまとめておく。

区分書類取得先有効期限
被相続人出生〜死亡までの戸籍謄本本籍地の市区町村なし
被相続人住民票の除票(本籍記載)最後の住所地なし
相続人全員現在戸籍各人の本籍地なし
取得者住民票(本籍記載)住所地なし
相続人全員印鑑証明書住所地3ヶ月以内が無難
遺産分割協議書自作・実印押印
不動産固定資産評価証明書(最新年度)物件所在地の市区町村申請年度のもの
不動産登記事項証明書(任意)法務局なし

注意点を一つ。印鑑証明書には法律上の有効期限はないが、銀行や法務局窓口で「3ヶ月以内」を要求されるケースが体感では多い。年末年始の集まりで一斉に取ってもらい、年明けに一気に手続きを進めるのが現実的なスケジュール感だ。

固定資産評価証明書は年度替わり(4月)で値が変わるので、申請年度に合わせて取り直す。3月に取得して4月に申請に持ち込むと「年度が違う」と言われることがある。

農地・山林を含むときの追加手続き

田畑や山林を相続する場合、登記とは別の手続きが発生する。これを見落とすと過料とは別の方向で詰む。

農地の場合: 農地法第3条の3に基づき、相続したことを知った日から10ヶ月以内に市区町村の農業委員会へ届出が必要。届出を怠ると10万円以下の過料がある(登記の過料とは別建て)。届出書はA4一枚で、戸籍謄本と登記事項証明書のコピーを添えるだけ。費用も無料なので、登記とセットで片付けるのが効率的だ。

山林の場合: 森林法第10条の7の2に基づき、地域森林計画の対象となる民有林を取得した場合は90日以内に市町村長へ届出が必要。こちらも違反すると10万円以下の過料がある。林業をやる気がなくても届出は出す。

市街化調整区域の土地: 用途が制限されるため、放置すると草木伸び放題で近隣からクレームが来やすい。相続後に売却を検討するなら、農地転用許可・開発許可の可否を地元の不動産業者に下調べしてもらうとよい。

これらの届出は「相続登記が終わったら」ではなく「相続を知ったら」のタイミングで動く。登記が間に合っていなくても届出だけは先に出せる。

法務局オンライン申請のつまずきポイント

「登記・供託オンライン申請システム」を使えば法務局に行かずに申請を完了できる。ただし事前準備が必要で、初回はここで1〜2週間を見ておく。

  • 電子証明書: マイナンバーカードの署名用電子証明書を使う。利用者証明用ではないので注意。
  • 専用ソフトのインストール: 申請用総合ソフト(Windows専用)を導入する。Mac利用者は仮想環境かWindows端末を用意する必要があり、これが意外な壁になる。
  • PDF添付: 戸籍や評価証明書は原本還付を受けつつスキャナでPDF化して添付する。スマホ撮影では文字認識で弾かれることがある。
  • 登録免許税の納付: 電子納付(インターネットバンキングまたはPay-easy)に対応した口座が必要。

紙申請なら以上の準備が不要で、書類を法務局窓口か郵送で提出するだけ。経過措置期限まで時間がない場合は、無理にオンラインに挑戦せず紙で出すほうが間に合いやすい。

物件タイプ別の難易度マップ

何から手をつけるべきか分からないとき、物件タイプ別に難易度・コスト・期間の目安を持っておくと優先順位を決めやすい。

物件タイプ難易度想定費用期間落とし穴
戸建て 自宅8〜15万円2〜3ヶ月私道持分の見落とし
マンション 区分所有6〜12万円1〜2ヶ月管理費滞納の引継ぎ
田畑 1〜2筆3〜8万円2〜4ヶ月農業委員会届出
山林 複数筆5〜10万円3〜5ヶ月境界未確定
借地権付き建物10〜20万円4〜6ヶ月地主の承諾書
共有持分 のみ6〜12万円3〜6ヶ月他の共有者との関係
数次相続 3世代最高30〜80万円6ヶ月〜2年相続人多数・所在不明

「低」レベルなら自分でやれる余地が大きい。「高」以上は最初から専門家を入れたほうが結果的に安く済むことが多い。複数物件をまとめて持っている場合は、難易度の高いものに引っ張られて全体のスケジュールが延びるので、難しい物件から逆算してスケジュールを引くのが正解だ。

都市部と地方で違う「やりにくさ」

同じ相続登記でも、都市部の物件と地方の物件で詰まるポイントが違う。

都市部の物件: 評価額が高く登録免許税の負担が重い反面、書類はそろっていることが多い。マンションの場合は敷地権付き区分建物として登記簿が整っているので、自分でやる難易度はむしろ低い。注意点は私道の持分(共有名義の私道)が別筆になっていることで、本宅と一緒に登記しないと後で売却時に苦労する。物件明細を取り寄せて私道が含まれているか確認したい。

地方の物件: 評価額は低くて税負担は軽いが、書類面で詰まりがちだ。古い登記簿だと地番と現況がずれていたり、隣地境界が確定していなかったりする。境界未確定でも相続登記そのものは可能(現況のまま名義変更すればよい)だが、後で売却するときに測量費用が30万〜80万円かかることがある。相続のタイミングで隣地と顔合わせができるなら、立会いだけでも済ませておくと将来の負担が軽い。

地方の田畑では「縄伸び」が起きやすい: 登記簿上は500㎡でも実測すると700㎡だった、というケース。固定資産税は登記簿の地積で計算されているので、実測すると追加課税の話が出る可能性もある。プロに相談する判断材料として頭に入れておく。

駆け込みなら「相続人申告登記」を覚えておく

2024年4月に新設された相続人申告登記は、期限内対応の応急処置として使える。1人の相続人が単独で申し出るだけで義務を履行したことになり、過料を回避できる。登録免許税は不要だ。

ただしこれはあくまで「申告」であって本登記ではない。不動産の処分(売却・担保設定)はできないし、最終的に遺産分割が済んだら本登記をやり直す必要がある。「兄弟と協議が長引いていて期限に間に合わない」「親が亡くなったばかりで気持ちの整理がついていない」場合の暫定的な逃げ道として使う。

数次相続(3世代未登記)はもつれる

「祖父の名義のまま、父も亡くなり、自分の代まで来てしまった」という数次相続は厄介度が一気に上がる。祖父の相続人(父の兄弟と父)、さらに父の相続人(自分と母と兄弟)が全員関係者になり、子・孫・甥姪まで枝分かれして20人を超えることも珍しくない。

具体例で見るとイメージしやすい。祖父が1975年死亡・実家土地建物の評価額1,200万円・祖父の子は父含めて4人・うち2人がすでに死亡し代襲相続発生・孫世代は8人、というケースで関係者は合計13人。協議書には13人全員の実印と印鑑証明書が必要になる。1人でも所在不明・意思能力なし・連絡拒否があれば、家庭裁判所に不在者財産管理人や成年後見人の選任を申し立てることになり、追加で6ヶ月〜1年が消えていく。

このパターンでは中間省略登記(平成19年法務省通達)で祖父から自分への直接登記が認められるケースがある。条件は「中間の相続(父の代)が単独相続=父が唯一の相続人だった」など限定的だが、当てはまれば登録免許税も手間も大きく節約できる。具体的には、

  • 評価額1,200万円 × 0.4% × 2回(祖父→父・父→自分) = 9.6万円
  • 中間省略が認められれば 1,200万円 × 0.4% × 1回 = 4.8万円

と税額だけで5万円近く差が出る。条件判定が複雑なので、ここは司法書士に最初から相談したほうが早い。

生前贈与の暦年課税と相続時精算課税の比較 で扱った生前対策と組み合わせれば、「親世代の相続登記を片付けつつ、自分から子への贈与を始める」流れが作れる。

「要らない田舎の山林」は国庫に返すルートがある

実家の名義はともかく、相続した山林や原野を引き取る気がないケースもある。2023年4月施行の相続土地国庫帰属制度を使えば、要件を満たした土地を国に引き取ってもらえる。

  • 申請手数料: 1万4千円(土地1筆あたり)
  • 負担金: 標準で20万円(10年分の管理費相当・宅地や農地は面積により増える)
  • 却下要件: 担保権・地役権が付いている、境界が不明、崖地、通路に使われている、汚染がある、など

法務省が2025年に公表した運用統計では、申請件数のうち承認に至るのが約6割、却下・取り下げが約4割という水準だ。残り4割の多くは「境界未確定」が原因なので、申請前に隣地所有者と境界確認をしておけるかが分かれ目になる。

「20万円払って手放すのか」と思うかもしれないが、毎年の固定資産税(評価額の1.4%)と管理コスト(草刈り・倒木処理・空き家保険)が世代をまたいで続くことを考えると、切り離す価値はある。固定資産税年1万円・管理費年3万円の山林なら10年で40万円、子の代まで考えれば60万〜80万円の支出になる。

民間の山林買取(山林バンク・URUUSAなど)で値が付くなら、そちらが先の選択肢になることもある。地目・面積・道路アクセス・樹種で価格は大きく変わるので、複数業者に査定を出すのがセオリーだ。

処分方法自己負担期間注意点
相続土地国庫帰属21.4万円〜半年〜1年却下要件が多い
民間山林買取0〜数万円1〜3ヶ月値が付かない物件多い
自治体への寄付物件次第数ヶ月多くの自治体が受け入れない
共有者・隣地への譲渡贈与税課税の可能性1ヶ月程度関係性次第

遺言書がある場合・相続税申告がある場合の絡み

遺言書が出てきた場合、遺産分割協議は基本的に不要になるので登記もスムーズに進む。ただし自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続き(申立てから検認期日まで1〜2ヶ月)が必要だ。法務局の自筆証書遺言保管制度を使っていれば検認は不要で、すぐに登記に進める。2020年7月の制度開始以来、利用件数は年々増えていて、2025年時点で累計10万件を超えた。

公正証書遺言なら検認も保管制度の利用も不要、原本が公証役場にあるので紛失リスクもない。費用は財産の合計額1億円以下で7〜10万円程度。「揉めそうな相続」を抱える親世代には公正証書遺言の作成を勧めるのが現実解になる。

相続税の申告期限は被相続人が亡くなったと知った日の翌日から10ヶ月以内。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合は申告が必要で、登記の3年期限よりずっと短い。相続税申告と相続登記の必要書類はかなり重なるため、戸籍収集・遺産分割協議・評価額の確定をまとめて進めるのが効率的だ。税理士に頼むなら司法書士と提携している事務所を選ぶと、登記まで一気通貫で動ける。

ケーススタディ: 実家+農地+山林のフルセット

地方在住の親世代から相続するときによくあるパターンを具体例で見ておく。

条件: 被相続人(父)が2025年12月死亡、自宅(評価額800万円)・隣接する田1筆(評価額50万円)・遠隔地の山林3筆(評価額合計30万円)を保有。相続人は子3人で全員都市部在住、遺産分割協議で長男が全部取得することで合意。

費用試算:

  • 登録免許税: 自宅 800万円×0.4%=3.2万円、田と山林は評価額100万円以下で免税
  • 戸籍収集: 約1.5万円(被相続人本籍2回移動)
  • 印鑑証明書: 450円×3人=1,350円
  • 法定相続情報一覧図: 無料(5部発行)
  • 司法書士報酬: 8万円(物件5筆まとめて依頼)
  • 農業委員会届出: 無料(自分で提出)
  • 森林法届出: 無料(自分で提出)
  • 合計: 約13万円

期間: 戸籍収集2ヶ月、遺産分割協議1ヶ月、司法書士手続き1.5ヶ月で計4.5ヶ月。並行して農業委員会・森林法届出を1ヶ月以内に処理。

ポイントは、評価額100万円以下の田・山林が免税になることと、複数筆をまとめて1件の申請書で処理できることだ。自宅単体で頼むより、ついでに小規模物件もまとめたほうが司法書士報酬の単価が下がる。逆に「自宅だけ登記して山林は後回し」にすると、山林だけで再度報酬がかかるので不利になる。

現場でよく出る5つの疑問

最後に、相談現場で繰り返し出てくる質問を整理しておく。

Q1. 兄弟と何十年も連絡を取っていない。協議は無理ではないか?

最後に連絡を取った住所から戸籍の附票を取れば、現在の住所までは追える。それでも所在不明なら、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる流れになる。費用は予納金20万〜100万円・期間半年〜1年が目安。それでも数次相続を放置するよりは早い。

Q2. 相続人全員に「相続放棄」してもらえば登記は不要では?

相続放棄は被相続人が亡くなったと知った日から3ヶ月以内、家庭裁判所で手続きが必要。何年も前の相続では基本的にもう間に合わない。「協議書で取得しない」と書くこと(事実上の放棄)はできるが、これは登記義務の話とは別で、誰か1人は名義人になる必要がある。

Q3. 共有名義で兄弟と1/3ずつ持っていたい場合、過料はそれぞれ来るのか?

相続人ごとに義務が課されるので、理屈上は3人それぞれに過料リスクがある。共有でも法定相続分どおりに登記してしまえば義務は履行済みになるので、協議が長引くなら一旦法定相続分登記をしておくのも手だ(後で持分変更登記は可能)。

Q4. 評価額が低すぎて登録免許税が数百円。それでも申請は必要?

税額の多寡は関係なく義務は義務だ。山林10筆・各評価額5万円なら税額合計2,000円、申請書は1通でまとめられる。100万円以下の土地は免税(2027年3月末まで)なので、税額ゼロでも申請は出す。

Q5. 海外在住の相続人がいる場合は?

印鑑証明書の代わりに在外公館発行のサイン証明書(署名証明)を取ってもらう。発行手数料は1通1,300円程度、現地公館に予約して出向く必要がある。郵送のやり取りで余裕を見て3〜4ヶ月見ておく。

認知症・意思能力のない相続人がいる場合

相続人の中に認知症や知的障害で意思表示が難しい人がいると、遺産分割協議そのものが進められない。本人が協議書に押印しても、後日「意思能力がなかった」として無効を主張されるリスクがあるため、家庭裁判所で成年後見人を選任してから協議に入るのが原則だ。

法定後見の流れ:

  • 申立て先: 本人の住所地の家庭裁判所
  • 必要書類: 申立書・診断書(医師作成)・本人と申立人の戸籍など
  • 申立て費用: 印紙・郵券で約1万円、診断書5,000〜1万円
  • 鑑定費用: 5万〜10万円(必要に応じて家裁が命じる)
  • 期間: 申立てから選任まで2〜4ヶ月

注意したいのは、成年後見人がついた後の遺産分割協議では、本人の取得分は法定相続分以上を確保しないと家裁が認めない点だ。「長男が全部取得、認知症の母には何も渡さない」というプランは通らない。後見制度は本人の財産を守る制度なので、節税目的の分割は基本的に通らないと考えたほうがいい。

期限が迫っているなら、相続人申告登記を先に出して過料リスクを潰し、本登記は後見人選任後にやる二段構えにする。

無料・低コストの相談窓口

「司法書士に頼むほどでもないが、自分一人では不安」というレベルなら、無料で使える相談窓口を組み合わせるとコストを抑えられる。

  • 法務局の登記手続案内: 各地の法務局で予約制(20分1枠、無料)。書類の書き方や添付資料の確認に使える。法的助言ではないが、申請書の不備チェックには十分。
  • 市区町村の無料法律相談: 司法書士・弁護士が月数回担当(30分、無料)。相続人関係図のチェックや進め方の方針相談に向く。
  • 司法書士会の相続登記相談: 各都道府県の司法書士会が定期的に開催(無料または1,000円程度)。専門家の生の感触が掴める。
  • 法テラス: 収入要件を満たせば弁護士・司法書士費用の立替制度が使える。揉めている相続で本格的に弁護士を入れる場合の選択肢。

複数の窓口を回ると微妙に違う見解が出ることもあるが、共通する指摘が3つ以上あればそれが本筋とみて差し支えない。最終的な申請書のチェックは法務局の登記手続案内で受けるのが一番確実だ。

残り9ヶ月でやることリスト

最後に、2026年6月時点から逆算した動き方を整理しておく。

  • 6〜7月: 固定資産税通知書をきっかけに、家族名義の不動産を全部洗い出す。市区町村の資産税課で名寄帳(課税台帳)を取ると未把握の物件が見つかることもある。
  • 8〜9月: お盆帰省で相続人同士の意思確認をする。揉めそうなら早めに弁護士を、円満なら司法書士見積もりを2〜3社取る。
  • 10〜12月: 戸籍収集と遺産分割協議書の作成。年末年始の集まりで実印・印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)を回収する。
  • 2027年1〜3月: 登記申請。法務局はオンライン申請の事前準備に2週間ほどかかるので、紙申請のほうが間に合いやすい。それでも厳しければ相続人申告登記で過料回避だけ確保する。

放置のリスクは過料だけではない。時間が経つほど相続人が増え、所在不明者が出て、結局国の所有者不明土地特別措置法のお世話になる。築60年・名義は祖父・相続人25人、というレベルになると司法書士費用も50万円を超えてくる。さらに不動産取引のシーンでも、登記が現所有者になっていないと売買契約自体を断られたり、銀行が住宅ローンの担保として認めてくれなかったりするケースが増えてきた。「いざ売ろう」「いざ建て替えよう」と思った瞬間に動けないのは精神的にもこたえる。今のうちに片付けておくと、選択肢を残せる。

生前の暦年贈与と相続時精算課税の使い分け固定資産税の評価替えと軽減措置 と合わせて読むと、生前対策から相続発生後の処理まで一通り見渡せる。次の世代に同じ宿題を残さないよう、今動ける範囲だけでも棚卸ししておきたい。

登記が終わっても忘れがちなのが、火災保険・固定資産税口座振替・電気/ガス/水道・JA や農協の組合員資格などの名義変更だ。火災保険は契約者死亡で自動失効するわけではないが、保険金請求のタイミングで「被相続人名義のまま」だと支払いが遅れる。固定資産税の口座振替も、引き落とし口座が凍結されると延滞扱いになりかねない。登記完了通知が届いたタイミングで、保険会社・市区町村の資産税課・各種公共料金窓口に1本ずつ電話を入れておくとよい。地方の物件なら自治会費・水利費・農業共済の請求書も次の年度に向けて名義を切り替えておく。

固定資産税の通知書を引っ張り出して、名義欄を一度確認することから始めればいい。