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傷病手当金2026|休職・退職後も受け取る全ステップ

May 14, 2026
2 min read

GW明けに「朝、家を出られない」と相談に来る同僚を、ここ数年で何人も見てきた。心療内科で「適応障害」「軽度うつ」と書かれた診断書を握りしめて、最初に出てくる質問はだいたい同じだ。「休職したら、お金はどうなるんですか?」

結論から言うと、健康保険に入っている会社員なら、業務外の病気で働けなくなった場合に給与のおよそ2/3が最大で通算1年6ヶ月、健保から振り込まれる。これが傷病手当金だ。ところが、いざ申請しようとすると「待期」「労務不能の意見書」「退職後継続給付」「受給期間延長」と、書類とルールが急に襲ってくる。一度詰まると申請書が机の上で1ヶ月寝かされ、その間にお金は出ないままだ。

ここでは、休職開始から退職、そして失業手当への切り替えまでをひと続きの導線として整理する。20〜40代の会社員、健保組合または協会けんぽの被保険者を想定している。

傷病手当金とは何で、何ではないか

傷病手当金は健康保険(健保組合・協会けんぽ・共済組合)の給付であり、雇用保険でも労災でもない。業務外の私傷病——うつ・適応障害・がん・手術・交通事故・骨折など——で連続して働けなくなったときに使う。逆に、長時間労働やパワハラが原因と認定されれば、それは労災(労働者災害補償保険)の領域になり、給付水準も手続きも別物だ。

支給期間は2022年1月改正で大きく変わった。改正前は「同一傷病で連続1年6ヶ月」だったが、改正後は「通算1年6ヶ月」になった。途中で職場復帰して受給が止まっても、再び同じ傷病で休めば残期間を使える。これを知らずに「もう受けたから無理」と諦めている人を時々見かける。

支給額は雑に言えば「直近の給与の2/3」だが、正確には支給開始日以前12ヶ月の各標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2だ。賞与は計算に入らない。入社1年未満の場合は、加入月数の平均と所属健保の前年度平均報酬月額を比較して低い方を使う。月給とほぼ同じ標準報酬月額を持つ人なら、ざっくり下表の感覚でいい。

標準報酬月額日額(円)月額目安(30日)1年6ヶ月通算上限
26万円(月収25万前後)約5,780約17.3万円約316万円
36万円(月収35万前後)約8,000約24.0万円約438万円
50万円(月収50万前後)約11,110約33.3万円約608万円
68万円(月収70万前後)約15,110約45.3万円約827万円

数字を見ると「思ったよりもらえる」と感じる人が多い。ただし額面と手元に残る金額にはズレがある。社会保険料(健康保険・厚生年金)と住民税は休職中も発生する。会社は給与から天引きできないので、休職者本人が会社の経理に振り込むか、復職後に分割天引きになる。月収36万円の人なら、月3.5〜5万円ほどが社会保険料・住民税で消える前提で資金繰りを考えたい。

なお、支給は月末や指定日に一括ではなく、申請を出してから健保が審査・決定して振り込むスタイルだ。協会けんぽで申請から振込まで2〜4週間、健保組合は早ければ1〜2週間。最初の入金までの1〜2ヶ月分の生活費は、別建てで確保しておく必要がある。預金が薄い人は、休職開始前にカードのキャッシング枠だけ確認しておくと精神衛生上いい。

受給4要件と「待期3日」のつくり方

申請が通るには次の4つを同時に満たす必要がある。

  1. 業務外の傷病による療養であること
  2. 医師が「労務不能」と認めること
  3. 連続する3日間の待期が完成していること(4日目以降から支給対象)
  4. 給与の支払いがない、または傷病手当金額より少ないこと

ここで実務的にややこしいのが待期と有給休暇の使い分けだ。連続3日の待期は、有給を使った日でも土日祝でも構わない。ポイントは「連続して労務不能で休んだ」事実だ。だから多くの人は「金土日」のように週末を絡めて待期を完成させ、4日目以降から本格的な休職に入る。有給を待期にぶつけてしまうと給与が出ているので、その3日分は手当が出ないが、待期日数のカウント自体は進む。

「先に有給を全消化してから傷病手当金に切り替えた方が得か」とよく聞かれる。額面で見れば有給(給与100%)の方が傷病手当金(給与の約2/3)より大きい。しかし、給与には所得税・住民税・社会保険料がフルにかかるのに対し、傷病手当金は所得税・住民税が非課税だ。月収35万円の正社員で試算すると、有給1日分の手取りはおよそ1.9万円、傷病手当金1日分は約8,000円——差は1日1万円弱。有給を20日全消化すると差は約20万円つくが、その分だけ通算1年6ヶ月の傷病手当金枠を「先延ばし」にできるメリットがある。長期療養が見えているなら待期だけで切り上げ、短期で復帰見込みなら有給を厚めに使う、というのが現場の使い分けだ。会社の就業規則を見て、待期と有給の運用ルール(待期に有給を充てられるか)を確認してほしい。

申請書類は月単位、診断書の書き方が命

申請書(健保組合またはけんぽの所定様式)は3パートに分かれている。

  • 被保険者記入欄(本人)
  • 事業主証明欄(会社の人事・労務)
  • 療養担当者意見欄(主治医)

月単位で申請するのが原則だ。給与締め日に合わせて区切ると、事業主証明欄が書きやすい。ここで地味に重要なのが、心療内科に書いてもらう「療養担当者意見欄」の文言だ。「労務不能」と明記されていることが必須で、軽率に「軽快」「就労可能」と書かれると、その月から支給が止まる。診察時に「先月も労務不能だった旨をお願いします」と毎回伝えるしかない。これは医師の判断なので強制はできないが、事実を共有する習慣をつけておきたい。

申請の月次フローをイメージしておくと迷いがなくなる。例えば5月から休職する場合、こんな進み方になる。

時期やること担当
5月初旬心療内科で診断書取得、3日以上連続で休む(待期完成)本人
5月中月末まで自宅療養、通院日と体調メモを記録本人
6月初旬5月分の申請書を作成、医師に意見欄記入依頼本人→医師
6月中旬会社の人事に申請書を渡し事業主欄記入会社
6月下旬〜7月上旬会社が健保に提出会社
7月中旬〜8月上旬健保が審査・5月分振込健保

最初の申請が振り込まれるまで2ヶ月前後かかる、と覚えておけばいい。2回目以降は流れに乗るので感覚的には1ヶ月遅れの「給与」のような感覚になる。

退職するとどうなる?「継続給付」4条件

休職満了で自然退職になりそう、もしくは復帰の見通しが立たないので退職を選ぶ——この局面で必ず聞かれるのが「退職後も傷病手当金は続くのか」だ。続く。ただし4つ全部を満たす場合に限る。

  1. 資格喪失日(退職日の翌日)の前日まで、継続して1年以上の健康保険被保険者期間があること(任意継続期間は除く)
  2. 資格喪失時に傷病手当金を受給している、または受給できる状態にあること(待期完成済みで労務不能であれば未申請でも該当する場合あり)
  3. その後も同一傷病で労務不能が継続していること
  4. 残りの支給期間(通算1年6ヶ月の残日数)があること

特に1の「継続1年以上」は転職直後の人が引っかかりやすい。転職して半年で発症した場合、前職と合算はできず継続給付は受けられない。逆にこの4条件を満たせば、任意継続でも国保でも、その後の保険の種類は問わない。

退職後に注意したいのが、「退職日に出社して挨拶した」だけで継続給付の要件を崩す危険があることだ。退職日は労務不能で休んでいる必要がある。最終出社は退職日の前にずらしておきたい。

失業手当との合わせ技と「受給期間延長」の罠

「療養しながら失業手当ももらえないか」と期待する人がいるが、ここは厳格だ。失業手当(雇用保険の基本手当)は「働ける状態にある人」のための制度で、傷病手当金は「働けない人」のための制度。同時受給はできない

ただし、両方の制度を時系列で連続して使うことはできる。療養中は傷病手当金を受け、回復してから失業手当に切り替える。このとき決定的に重要なのが、ハローワークへの受給期間延長申請だ。

通常、失業手当の受給期間は離職日翌日から1年。療養で1年以上動けないと、その間に受給権が時効で消える。これを防ぐのが受給期間延長で、最長3年まで失業手当の受給期間を後ろに伸ばせる。申請期限は離職日翌日から30日経過後、できるだけ早く(従来の「1ヶ月以内」要件は2025年から運用が緩和されたが、遅らせる理由はない)。出し忘れると、回復してハローワークに行ったときに「もう受給期間が終わっています」と言われる。これを毎年1月や5月の窓口で見るたびに胃が痛くなる。

退職前後の手続きを整理するなら、退職代行サービスの選び方記事、退職後の失業手当の自己都合1ヶ月制限ガイド、それから6月に必ず届く国民健康保険の通知書シミュレーションも合わせて確認しておくと、お金まわりの取りこぼしが減る。回復後にスキル磨きを兼ねて求職活動するなら、教育訓練給付80%還付ガイドで受けられる講座の枠も先に押さえておきたい。

時系列で書くとこんなイメージだ。退職して傷病手当金を継続給付で受給→残期間が見えてきた段階で受給期間延長申請を提出→症状が落ち着いてからハローワークで失業手当の手続き→受給しながら教育訓練給付で資格取得、という4段ロケット。途中の延長申請を忘れると、最後の失業手当の段で梯子が外れる。退職予定日が決まった時点で、ハローワークの初回手続きの予約だけは入れておくと安心だ。

加入する保険で決定的に変わる支給設計

主要な公的医療保険ごとに、傷病手当金の扱いを並べてみる。

保険種別法定支給率法定期間付加給付の有無退職後継続給付
協会けんぽ(中小企業)2/3通算1年6ヶ月なし4条件で可
大手健保組合2/3(+付加で最大80〜100%)通算1年6ヶ月(+付加で最長3年6ヶ月)あり(組合次第)4条件で可
共済組合(公務員)2/3(共済独自手当あり)通算1年6ヶ月あり4条件で可
国民健康保険なし一部の市町村のみ任意給付
国保組合(一部の業界国保)組合により有組合により異なる組合次第組合次第

ここで注意すべきは、国民健康保険には原則として傷病手当金がないことだ。フリーランス・自営業・退職して国保に切り替えた人は、業務外の病気で働けなくなっても健保のような所得保障は受けられない。これがあるからこそ、退職時に「任意継続にするか、すぐ国保に行くか」の選択は、傷病手当金の継続給付4条件を踏まえて慎重に決める必要がある。継続給付の対象であれば、国保に切り替えても給付は止まらない。逆に対象でないなら、健保の任意継続でも給付は出ない。判断軸は「退職時点で受給中・受給可能かどうか」だ。

健保組合は付加給付を必ず確認

協会けんぽは法定どおり「2/3・通算1年6ヶ月」だが、大企業の健保組合には付加給付で「給与の80%」「期間2年延長」を独自に上乗せしている組合がある。

調べる手順はシンプルだ。

  1. 保険証(またはマイナ保険証ポータル)で発行元を確認する
  2. 「(健保組合名) 付加給付規程」で検索し、組合のサイトにあるPDFを開く
  3. 第◯条「傷病手当金附加金」「延長傷病手当金附加金」を読む
  4. 不明なら組合事務局に電話、それでも要領を得なければ会社の福利厚生窓口

同じ年収・同じ症状でも、加入する健保で年間100万円以上の差が出る。例えば月収50万円のケースで、協会けんぽなら月33万円・通算1年6ヶ月で約608万円が上限だが、付加給付80%・2年延長の組合に入っていれば月40万円・最長3年6ヶ月で1,500万円超になる計算だ。これを知らずに転職した人が「前職なら付加給付で2年もらえたのに」と後から悔しがる場面を何度か見ている。

転職先を選ぶときに「健保組合の付加給付」を比較材料に入れる人は少ないが、家族の持病やメンタル不調歴がある人にとっては年収条件と同じくらい効くことがある。

休職中も止まらない出費を覚悟しておく

傷病手当金は「収入の代わり」だが、給与天引きで自動処理されていた支出はすべて手作業に変わる。

  • 健康保険料(本人負担分):休職中は会社経由で振込、月2〜4万円
  • 厚生年金保険料(本人負担分):同上、月2〜5万円
  • 住民税:6月切り替えの新年度分が普通徴収か特別徴収継続かを会社と決める
  • 雇用保険料:給与が出ない月は発生しないが、リハビリ給与には課される
  • 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo):掛金停止か継続かを選ぶ
  • 団体生命保険・医療保険:休職中の取扱いは会社規定次第

会社の人事から「振込明細」が月次で送られてくるはずだが、最初の1ヶ月は段取りが噛み合わず混乱しがちだ。預金から月5〜10万円出ていく前提で、傷病手当金の手取り感覚を組み立てた方がいい。手取り21万円が振り込まれても、社保・住民税で7万円消えれば、自由に使えるのは14万円。さらに通院費・薬代・カウンセリング代がかさむと、月10万円台後半が家計の現実値になる。

住民税は前年所得に対して課されるので、休職に入った年の翌年6月から減税されていく。逆に休職した年の住民税は休職前の高い所得ベースで来る。「働いていないのに税金が高い」と感じるのはこのタイミングだ。

受給中にやってはいけないこと

労務不能の証明で受給している以上、以下の行動は給付停止リスクになる。

  • 副業・短期バイト(在宅ワークも含めて健保が把握すれば「労務可能」と判定される)
  • 転職活動を堂々と表に出すこと(面接歴や内定報告は要注意)
  • SNSへの旅行・ライブ参戦・スポーツ観戦の投稿(健保調査員が見るケースあり)

逆に、自宅療養記録(通院日・服薬日・体調メモ)を月次で残しておくと、後で支給更新の根拠資料として使える。「休んでいる証拠は本人しか作れない」という前提で動いた方がいい。

3つのケースで全体像を掴む

具体的に動きを追うと、どこに注意すべきか見えてくる。

ケース1:28歳・SE・協会けんぽ・月収32万・勤続3年

5月のGW明けに不眠と動悸、6月初旬に心療内科で適応障害の診断書(3ヶ月の自宅療養指示)。連休と土日を待期に充て、6月10日から本格的な休職へ。標準報酬月額32万円、日額約7,110円。月額にして約21.3万円が傷病手当金として入る。家賃8万・固定費5万・食費3万のミニマム生活で、預金80万が3ヶ月で底をつく試算が、傷病手当金で耐えられる範囲に収まった。8月に主治医と相談して通算1年6ヶ月のうち最初の3ヶ月を使い切り、9月から段階復帰の予定。

ケース2:35歳・営業職・健保組合(付加給付80%・期間2年延長)・月収45万・勤続8年

長時間労働とノルマで適応障害、6ヶ月の休職指示。協会けんぽなら月額約30万・1年6ヶ月で上限548万円だが、所属の健保組合に付加給付があったため、実際には月額約36万・最長3年6ヶ月の枠が使える。休職満了で退職を選んでも、4条件を満たすため継続給付で残期間を引っ張れる。本人がこの付加給付の存在を知ったのは休職2ヶ月目で、もっと早く調べておけば資金計画が落ち着いていたと振り返っていた。

ケース3:42歳・契約社員・健保組合・月収28万・勤続6ヶ月

うつ症状で休職を申し出たが、被保険者期間が1年未満のため退職しても継続給付は受けられない。在職中は通常通り傷病手当金を受給できるが、退職後は手当が止まる。この場合は休職満了まで在籍を引き延ばすか、退職時点で任意継続(国保より安いケースもある)に切り替えて、失業手当の受給期間延長と障害年金の準備に重心を移す戦略になる。勤続1年が継続給付の壁だと、契約社員・転職直後の正社員は知っておきたい。

業種・職種で「労務不能」のラインが違う

同じ「適応障害・軽症うつ」の診断書でも、職種によって労務不能の判定が変わる。デスクワークなら「在宅で軽作業ができる程度に回復」したら労務可能と判定されがちだが、対人ストレスが症状の核心にある場合、営業や接客業は同じ程度の回復では復帰不可と判断される。

職種労務不能と判定されやすい状態復帰判定で見られるポイント
デスクワーク(SE・経理)集中力低下、不眠、出社不安通勤・3時間連続作業の可否
営業・接客対人緊張、声が出ない、過呼吸顧客対応・会話量耐性
現場(工場・建設)注意散漫、めまい、薬の眠気安全作業の可否、危険物操作
医療・介護共感疲労、フラッシュバック患者対応・夜勤シフト耐性

医師に病状を伝える際、「自分の仕事は◯◯で、いま△△ができない」と職種固有の作業に紐づけて話すと、意見書の精度が上がる。「集中力が切れる」より「2時間続けてコードを書くと吐き気がする」の方が労務不能の根拠として強い。

復職プロセスで気をつけるお金の話

復職の現場では「リハビリ出勤」「試し出勤」と呼ばれる慣らし期間を設ける会社が多い。ここが地味にややこしい。

無給のリハビリ出勤(法的には労務提供なし扱い)であれば傷病手当金は継続できるが、少額でも給与が発生すると、その日は労務可能とみなされて手当が止まるケースがある。健保組合によっては「日額の60%以下の給与であれば差額支給」のルールがあるので、復職プランを立てる前に組合に確認したい。

完全復職した後で「やっぱりダメだった」となり再び休職した場合、同一傷病なら通算1年6ヶ月の残期間で再受給できる。違う傷病(うつから別の身体疾患など)なら、また別カウントで1年6ヶ月の枠が新たに開く。

よくつまずくQ&A

Q. 退職勧奨に応じて辞めた場合、傷病手当金は続く? A. 退職理由は問われない。継続給付4条件を満たしていれば、自己都合・会社都合・退職勧奨どれでも継続する。ただし退職日に出勤すると要件が崩れるので、最終出社日と退職日を分ける段取りが必須。

Q. 任意継続にすると保険料が高い。国保に切り替えても傷病手当金は続く? A. 続く。継続給付の要件は「退職時点で受給中または受給可能であること」だけで、その後の保険の種類は問わない。任意継続は保険料が割高になりがちなので、退職時点で市区町村の国保保険料を試算してから選ぶといい。

Q. 副業の収入があるが、傷病手当金は受けられる? A. 本業を労務不能で休んでいて、副業の収入がない・または極端に少額(休業前収入の数%程度)であれば受給可能と判断されるケースが多いが、健保により厳しさが違う。副業で月数万円でも稼ぎがあると「労務可能」と見なされるリスクが高いので、休職中の副業は基本的に止めるのが安全だ。

Q. 海外に住みながら受給できる? A. 制度上は不可能ではないが、医師の労務不能証明を継続的に得るのが難しいため、現実には海外療養は推奨されない。日本国内の主治医に通院し続ける前提で組み立てたい。

Q. 障害者手帳を取ると傷病手当金に影響する? A. 影響しない。手帳は税控除や交通機関割引のための制度で、傷病手当金とは別レイヤー。むしろ住民税控除(障害者控除27万円〜)や所得税控除で年5〜10万円の節税につながるので、症状が長引きそうなら申請を検討する価値がある。

並行して使える制度を取りこぼさない

メンタル系の傷病なら、医療費を1割負担に下げる自立支援医療(精神通院)は申請ハードルが低く、ほぼ確実に通る。月の通院・服薬コストが3割→1割に下がる効果は地味に効く。市区町村の障害福祉課で申請、診断書1通(自立支援医療用の専用様式)で済む。月の医療費5,000円が1,500円台になる感覚で、年で3万円前後の節約。所得制限はあるが、休職中は「自己負担上限額」も低めに設定されることが多い。

初診から1年6ヶ月を経過しても就労困難が続いた場合は、障害年金(精神)の請求が視野に入る。診断書と病歴・就労状況等申立書の整合性が結果を分けるので、専門社労士に依頼する人が多い。傷病手当金が切れる時期と障害年金の支給開始を重ねる「ブリッジ設計」がセオリーだ。

長時間労働やパワハラが原因と思われる場合は、労災(精神障害の労災認定)の検討余地もある。労災が認定されれば傷病手当金より給付が手厚く(休業補償給付+特別支給金で給与の8割相当)、療養中の解雇制限もかかる。ただし認定ハードルは高く、月100時間超の残業証拠やハラスメント記録が要る。労災と傷病手当金は同じ傷病で同時には受けられないので、労災を狙うなら最初から弁護士・社労士に相談した方がいい。

申請前にチェックすべき5項目

机に座って書類を埋める前に、次の5つを30分で確認すると無駄な往復が減る。

  1. 保険証の発行元(協会けんぽ/健保組合/共済組合) — 様式と提出先が違う
  2. 被保険者期間(健康保険証の交付日からの月数) — 退職後継続給付の1年要件に直結
  3. 直近12ヶ月の標準報酬月額 — 給与明細または健保のマイページで確認
  4. 会社の就業規則の休職条項 — 休職可能期間と復職判定の規定
  5. 健保組合の付加給付規程 — 上乗せ給付の有無と要件

5の付加給付は意外と人事担当者も把握していないことがある。健保組合の事務局へ直接問い合わせる方が早い。電話の際は「傷病手当金の付加給付の有無、給付率、給付期間延長の規程の有無を教えてください」と明確に聞くと、5分で答えが返ってくる。事務局によっては規程PDFをメールで送ってくれる。これを保管しておけば、あとで申請時に金額計算の根拠として使える。

最後に試せること

休職を決断した日と、その2週間後では、書類を出す体力がまったく違う。診断書を取った当日に、保険証の裏で発行元(協会けんぽか健保組合か)だけは確認してほしい。それだけで翌日からの動きが半日早くなる。給付の細かい計算は後でいい。まずは保険証を見ること、それから人事に「傷病手当金の申請書ください」と一言メールを送ること。動き出してしまえば、あとは月単位で同じ流れを繰り返すだけだ。

それから、これは個人的な意見だが、休職を決めた瞬間に「復職の予定を立てない」のもひとつの選択肢だ。半年後の自分が何を望むかは、いまの自分には分からない。傷病手当金は通算で1年6ヶ月使える。期限内なら方針転換していい。慌てて決めなくていい制度設計になっていることは、療養の助けになるはずだ。

一度立ち止まる時間を、お金の不安で削らずに済むように、この制度はある。「もらえるお金は最大限もらう」のは権利であって罪悪感を持つ話ではない、ということも書き添えておきたい。

主な情報源と確認先

最新の数値や運用は変わる前提で、自分の状況に合わせて公式情報をあたってほしい。本記事は2026年5月時点の制度に基づくが、要件・期間・金額は今後の改正で変動する可能性がある。

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ):傷病手当金支給申請書、待期、継続給付
  • 各健康保険組合のサイト:給付規程・付加給付規程
  • 厚生労働省:傷病手当金パンフレット、雇用保険・受給期間延長
  • 日本年金機構:障害厚生年金・障害基礎年金の請求要領
  • 各市区町村の障害福祉課:自立支援医療(精神通院)
  • 全国社会保険労務士会連合会:無料相談・専門社労士検索

申請書のダウンロード元と提出先は加入する保険によって異なるので、保険証発行元の名称で検索するのが結局一番早い。健保組合に加入している人は、組合のサイトのトップから「給付・請求」のページに進めば、申請書フォーマットと記載例がほぼセットで置いてある。