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配当金は確定申告すべき?年収別の損益分岐2026

June 8, 2026
1 min read

新NISAの非課税枠を使い切って、あふれた分を特定口座(課税)で運用している人が増えた。そこで春になると毎年同じ疑問にぶつかる。証券口座に届いた「特定口座年間取引報告書」を見て、配当金はそのまま放っておくべきか、それとも確定申告した方が得なのか、という問いだ。

結論から言うと、答えは年収で変わる。しかも数年前のネット記事に書かれていた「正解」は、いまや通用しなくなっている。理由は後で詳しく書くが、まずは大前提から整理しておきたい。

配当には3つの扱いがある

上場株式の配当は、受け取った時点で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が源泉徴収されている。この20.315%という数字を頭の片隅に置いておくと、以降の話がぐっと分かりやすくなる。

扱いは次の3通りだ。

  • 申告不要 — 源泉徴収の20.315%で課税が完結する。何もしないと自動的にこれになる。
  • 総合課税 — 給与などと合算して累進税率で計算するが、その代わり配当控除(所得税10%・住民税2.8%)が使える。
  • 申告分離課税 — 株の譲渡損と損益通算できる。配当控除は使えない。

どれを選ぶかで手取りが変わる。だからこそ「申告した方がいい人」と「しない方がいい人」がはっきり分かれるわけだ。

消えた裏ワザ:住民税だけ申告不要

少し前まで、賢い人がやっていた節税がある。所得税は総合課税で配当控除を取り、住民税だけは申告不要(5%)を選ぶ。所得税と住民税で別々の課税方式を選べたので、いいとこ取りができたのだ。

ところが令和6年度(令和5年分の申告)から、この二刀流は封じられた。所得税と住民税の課税方式が一体化され、所得税で総合課税を選べば住民税も自動的に総合課税になる。つまり昔の「住民税だけ申告不要」を前提にした古い記事の通りにやると、いまは損をしかねない。ここが今回いちばん伝えたい改正点だ。

分岐ラインは「課税所得695万円」

では総合課税が得になるのはどこまでか。ポイントは配当控除が定率(10%)であるのに対し、所得税が累進である点だ。税率が低い人ほど控除の効きがよくなる。

課税所得の各帯で、総合課税にしたときの実質税率(配当控除と復興特別所得税を反映)を申告不要の20.315%と並べると、こうなる。

課税所得総合課税の実質税率(所得税+住民税)申告不要有利な方
195万円以下約7.2%20.315%総合課税
195万〜330万円約7.2%20.315%総合課税
330万〜695万円約17.4%20.315%総合課税
695万〜900万円約20.5%20.315%申告不要
900万円超約30%超20.315%申告不要

住民税側は総合課税だと10%−2.8%=7.2%となり、申告不要の5%より2.2ポイント高い。それでも所得税の配当控除がそれを上回るため、課税総所得が695万円以下なら総合課税の方が得、という結論になる。日本経済新聞も2026年2月の記事で同じ695万円ラインを挙げている。

「課税所得」は年収そのものではない点に注意したい。給与収入から給与所得控除・基礎控除・社会保険料控除などを引いた後の金額だ。給与だけなら年収900万円前後でも課税所得は695万円を下回ることが多い。なお令和7年分(2025年分)からは基礎控除が58万円、給与所得控除の最低額が65万円に引き上げられたので、同じ年収でも課税所得はやや小さく出る。

実額で見る:配当20万円なら、いくら戻るか

抽象的な税率だけだとピンと来ないので、年間の配当が20万円だった会社員のケースで戻り額を出してみる。源泉徴収ですでに約40,630円(20万円×20.315%)が引かれている。これを総合課税で申告し直すと、課税所得帯ごとに次のくらいが戻る計算になる。

課税所得総合課税後の税額(概算)還付される額
195万〜330万円約14,400円約26,000円
330万〜695万円約34,800円約5,800円
695万円超40,630円より多い戻らない(むしろ損)

低い帯なら2万円超が手元に戻るが、695万円を超えると申告した瞬間に持ち出しになる。配当が大きい人ほど金額の振れも大きいので、申告前に一度この計算をしておく価値はある。マネーフォワードや会計ソフトの確定申告コーナーでも、総合課税・申告分離・申告不要を切り替えて税額を比較する機能が付いているものが多い。

株で損が出た年は「申告分離」

その年に株を売って損が出ているなら、話は別だ。申告分離課税を選べば配当とその譲渡損を相殺できる。たとえば配当が20万円あり、別の銘柄で30万円の売却損を出した年なら、配当の源泉税が戻り、引ききれない10万円は翌年以降3年間繰り越せる。

配当控除は使えないが、損失と通算できるメリットの方が大きい局面はある。「今年は負けた」という年こそ、申告分離を検討する価値がある。複数の証券会社に口座を分けている人も同じだ。A社では譲渡益、B社では譲渡損、というように口座をまたいだ損益は、申告して初めて合算できる。源泉徴収ありの特定口座でも、申告しなければバラバラに課税されたままになる。

申告しない方が得な人もいる

ここが見落とされがちな落とし穴だ。配当を申告すると、その所得は合計所得金額に上乗せされる。すると税金は減っても、別のところで負担が増えることがある。

  • 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料が上がる(自営業者・年金生活者は直撃しやすい)
  • 配偶者控除・扶養控除の判定から外れる
  • 住民税の非課税世帯から外れ、各種給付や減免の対象でなくなる

会社員で社会保険(健保組合・協会けんぽ)に入っている人は、保険料が給与で決まるため配当を申告しても保険料は動かない。一方、国保の人は配当をまるごと所得に乗せられるので、税金が数万円減っても保険料が十数万円増えて逆ザヤ、ということが現実に起きる。

具体的に考えてみる。国保料の所得割率は自治体でおおむね10〜12%前後だ。自営業の人が配当50万円を総合課税で申告すると、税の還付は1万〜数万円なのに、所得が50万円増えたぶん国保の所得割が5万〜6万円増える、という逆転が起こりうる。さらに住民税の非課税ラインや、自治体の各種減免の判定にも所得は効いてくる。「税金の損得」だけを電卓で叩くと、この保険料の増加分を見落とす。国保の人は、税の還付額と保険料・判定への影響を必ずセットで並べてから決めたい。

タイプ別の目安

会社員(給与+配当)の場合。健保・厚生年金の保険料は給与で決まるので、配当を申告しても保険料は1円も動かない。だから純粋に税率の損得だけで判断できる。課税所得695万円以下なら総合課税で取り戻せる可能性が高く、源泉徴収票の「課税される所得金額」がこのラインの内側なら、まず試算してみる価値がある。ただし配偶者控除を受けている人が配当を申告すると、世帯の合計所得が動いて控除の判定に響く場合がある点だけ確認しておきたい。

個人事業主・フリーランス(国保)の場合。ここがいちばん慎重になるべき層だ。税額だけ見れば総合課税が得に見えても、国保料・住民税非課税判定・各種減免への跳ね返りを足し算すると、トータルで損になることが珍しくない。前述のとおり配当50万円で税の還付が1万円台、国保増が5万円超、という逆ザヤは現実に起こる。電卓を二度叩く——税の損得と、保険料・判定の損得を別々に——のが鉄則で、微妙なラインなら申告不要のまま放っておく方が無難なことが多い。

年金+配当世帯の場合。申告で合計所得が上がると、医療・介護の窓口負担割合(1割が2割・3割へ)や、後期高齢者医療・介護保険料の段階が上がることがある。減税額より、こうした負担増の方が大きくなりやすい。とくに住民税非課税世帯から外れると、給付金や各種減免の対象でなくなる影響は税額の比ではない。年金生活者は申告不要が有利なケースが目立つ、と覚えておいて大きく外さない。

つまずきやすい誤解

最後に、相談を受けていてよく出てくる勘違いを潰しておく。

  • 「NISAの配当も申告すれば配当控除が使える」——使えない。NISA口座の配当はそもそも非課税で、源泉徴収もされていない。確定申告の対象外だ。配当控除や損益通算が関係するのは課税口座(特定・一般)の配当だけ。
  • 「外国株のETFやADRの配当も配当控除が取れる」——取れない。配当控除は日本の法人からの配当が対象で、外国株式や外貨建てMMFの分配金は対象外。外国税額控除という別の制度で二重課税を調整する話になる。
  • 「J-REITの分配金も配当控除の対象」——これも対象外。見た目は配当でも、不動産投資法人からの分配金は配当控除が使えない。
  • 「申告は配当だけ、譲渡損益は別々でいい」——総合課税か申告分離かは、その口座の配当をどう扱うかの選択。損益通算したいなら申告分離で配当と譲渡損をそろえて申告する必要がある。つまみ食いはできない。

このあたりを取り違えると、戻ると思った税金が戻らず、申告の手間だけが残る。

手続きと、そもそも論

判断材料は証券会社が出す「特定口座年間取引報告書」に全部載っている。配当の額、源泉徴収された所得税・住民税、譲渡損益まで一枚にまとまっているので、これを手元に置けば話が早い。e-Taxなら株式の画面でこの数字を入れ、総合課税か申告分離かを選ぶだけだ。最近はマイナポータル連携で、証券会社の年間取引報告書のデータをそのまま取り込める口座も増えてきた。

注意したいのは、一度確定申告した配当は後から「やっぱり申告不要に」と取り消せない点だ。逆に、申告不要のまま放置していた配当を後から「やっぱり申告したい」と更正の請求で拾うことも、原則できない。つまり申告するかどうかは、その年の申告期限までに一発で決める勝負になる。迷ったら、税額だけでなく保険料・各種判定まで含めて試算してから出すこと。判断を誤ったと気づいた頃には手遅れ、というのがいちばん多い失敗だ。

最後にそもそもの話を。配当に課税される前提を消す手もある。新NISAの成長投資枠やiDeCoに優先して回せば、配当はそもそも非課税だ。課税口座に置くべきか、非課税枠を先に埋めるべきか——その順番から考え直すと、確定申告で悩む場面そのものが減る。詳しくはiDeCoとNISAどっちを優先すべきかiDeCo 2027年改正の新枠も合わせて読んでほしい。

まずは自分の源泉徴収票か確定申告書の控えで「課税される所得金額」を確認するところから始めるといい。695万円という線のどちら側にいるか、それだけで動くべきか放っておくべきかの見当はつく。